2022

11.18

INTERVIEW

私が選んだポスター/田村有斗(TM INC.)

「POSTERS」でポスターを購入されたことをきっかけに、購入者の仕事や生活についてお話を伺いました。

田村さんが選んだ作品:V×F 印刷の可能性展 / 服部一成

田村有斗(TM INC.)/ 日本大学芸術学部デザイン学科を卒業後、電通テック、MR_DESIGN を経てTM INC.を設立。ブランド戦略におけるコンセプトの開発からCI・VI 設計、広告やパッケージ、サイン計画、空間演出など、ビジュアルコミュニケーションを軸にした総括的なクリエイティブを手がける。



Q. 今回ポスターを購入されたきっかけを教えてください。

A. 個人的に好きなポスター作品はたくさんあって、仕事場にも何か飾れたらいいなというのはずっとありました。ただ作品として素敵だと思うものをいざ日常に取り入れるとなると、少し身構えてしまってなかなか手が出せずにいました。
自分もデザインの仕事をしているので、クライアントからの依頼に対し、なるべくニュートラルな状態を保つことを大事にしています。特定のデザインに影響を受けすぎて引っ張られることが怖いという気持ちもあり慎重になっていました。


Q. そんな中で服部さんの作品を選ばれた理由は?

A. 元々作品集などで拝見していて好きな作品でした。今回POSTERSのサイトで改めてお見かけして、これが購入できるならぜひ飾りたい!と思いました。徹底的に作り手の情念が排除されたかのようなそのストイックな表現に惹かれました。一見混沌としたビジュアルなのに、すごくおおらかで、ある種の無垢さを感じる。心が洗われます。


Q. 実際に空間に置いた印象はいかがですか?

A. ホワイトノイズにリラックスの効果があると聞きますが、それの視覚版と言えるかもしれません。自分の頭が煮詰まった時に、ふと目線をそらすと服部さんの作品が視界に入ってくる。そうすると自分の偏った考え方とかが吸い込まれていくような気がして、一度頭の中を空っぽにできるんです。
普通モノをつくる立場からすると、作品からインスピレーションを受ける人がほとんどだと思います。自分にとってもそうですが、一方で空気清浄機のように雑念をクリアしてくれる存在でもあります。


Q. 田村さんのポスターにまつわる記憶を教えてください。

A. 高校生の頃にNHKで佐藤可士和さんの特集をたまたま目にしました。その中で紹介されていた広告がめちゃくちゃかっこよくて、デザインという仕事を認識した最初の記憶です。それまでも教科書に落書きして友達に見せるとか、スニーカーをカスタムするとか、そういうことは好きでした。ただ、そこからデザイナーになるには美大に行かなきゃいけないとわかって、デッサンの勉強を始めました。


Q. 佐藤可士和さんの作品のどんなところに惹かれましたか?

A. 当時はただ単純にかっこいいという感想でした。ただ自分はそこからデザインの世界に入っていきました。初めてひよこが目にしたものを親と認識するように、今の自分のスタンスにもつながっているのだと思います。 このSMAPの広告は、まさに街中をキャンバスにした現代アートのようでした。物理的に目に付くという一点突破で、広告の定石としてのメッセージのようなものはドライに削いでいった印象があります。人間の無意識下を刺激するストレートでプリミティブな表現は、今自分がデザインする上でいつもそうありたいと思っていますし、きっと今回服部さんの作品を購入したことにもつながっているような気がします。
もう一点、前職でお手伝いした佐野研二郎さんの亀倉雄策賞展のポスターも特に好きな作品です。シンプルな色面構成の中にユーモアと美意識が詰まっていて、作り手の生き様が凝縮されているように思えてきます。一見技術的には誰でもできそうなようで、絶対にその人しかつくれない。そんなポスターに胸を打たれるのかもしれません。


Q. ニュートラルさを大事にされていますが、ご自身の色を出すこととのバランスはどう考えていらっしゃいますか?

A. 正直なところ、自分の中の作家性のようなものがあまりなくて、普段のクライアントワークではクライアントや手に取る人に委ねるようなスタンスが強いです。仕事一つひとつに異なるカルチャーや目的があるので、毎回切り替えながら制作しています。
ただ一方で、自分の価値観や好きなものを突き詰めて、それをクライアントに提供したり、自らプロジェクトを起こしていくことへの興味もあります。今年の春にはミラノサローネでオリジナルのプロダクトブランドを発表しました。


Q. ご専門はグラフィックだと思いますが、どういった経緯だったのでしょうか?

A. プロダクトデザイナーの原田(TM INC.)との共作になります。マーケットで規格外扱いの小径の間伐材を用いた家具シリーズ「morito」を発表しました。元々カシオ計算機に勤めていた原田が退社するタイミングで、TM INC. に参加してくれました。彼は家具や工芸品をやりたいという思いがあって、でも独立に不安があった。自分もインテリアに関心はあったのですが、一人では難しいと思っていました。じゃあ一緒にやろうよと。結果的に、原田の作りたいものを実現する手伝いをした格好になり、僕はいいねいいねと言っているだけでしたが。


Q. 領域の異なるデザイナー同士協業できる環境は大きいですね。

A. ブランドの立ち上げから関わるようなプロジェクトでは、グラフィックの領域にとどまらない提案ができますし、平面の作品でも造形的な視点で組み立てていくパターンもあるので、そういったときの視野が広がったように思います。同じく社員にアートディレクター・クリエイティブプランナーのRak(TM INC.)という者もおり、ミュージシャンのアートワークやブランディングなど、また違った領域で活躍しています。普段は個々人バラバラに動いているのですが、同じ組織にいることで、いつも刺激をもらっています。


enoki light:morito シリーズの照明作品。えのきの軽快さや優しさ、柔らかさからインスピレーションを受けたデザイン。
Freyia:ブランドの立ち上げからアートディレクションを担当したCBDオイルのブランド。

Q. ポスターという分野では、ご自身の作品で印象に残っているものはありますか?

A. 僕の中でポスターは印刷プロセスを経たアートのような位置付けなので、自分の作品、と胸を張れるものはまだありません。これが自分のポスターだという作品をいつかつくりたいですね。その時には、POSTERSに持ち込ませてください!



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